再生、『当流折形大全』&『女子教科 包結之栞』
今般、『当流折形大全』に基づき、雛形を拵えた。
当方手許にある同書は『小笠原流折かた』として、奈良女子大学学術情報センターがインターネットで閲覧できるよう公開しているものと全く同じ内容である。
http://base1.nijl.ac.jp/iview/Frame.jsp?DB_ID=G0003917KTM&C_CODE=NARA-00160
公的機関が公開していることから、同書については著作権保護期間を過ぎていることが確認されたものとみなし、ここでは手許の本を撮影し解説資料に付した。
この書については斯界の泰斗、山根章弘氏が高著『日本の折形』で言及されているほか、1999年10月9日から11月28日の間、龍野市歴史文化資料館で開催された「折る―折り紙の歴史」でも紹介されていた。
同展の冊子、『折るこころ』の解説から引用しよう。
「折形と展開図を並べて載せ、初心者にも分かりやすいようにしたという。水引の掛方も含めて121項目を利用しやすいようにコンパクトにまとめた画期的な書である。本来の武士用の折形だけでなく、女性用も混ぜて当世風になっている。」
さて、果たして「初心者にも分かりやすい」ものであるかどうか。
一見すればたちまちに、分かりやすくないことが判る。
展開図には山折り、谷折りの区別はなく、仕上がりの図も精確を欠くこと甚だしい。
私は初心者ではないつもりであるが、この書にのみ基づいて形を起こすのは容易ではなかった(だからこそ、作業を愉しむことができたのではあるが)。なお幾つか、解きほぐせていないものが残っている。
そこで参考にしたのは次の諸資料。
『奥伝図解 小笠原流折紙と水引の結び方』石井泰次郎、国会図書館デジタルコレクション
(国会図書館の検索画面では『小笠原流折形と水引の結び方:奥伝図解』と表示される)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/927327
『折形細記番外折形・全』、日本銀行金融研究所・貨幣博物館がインター・ネットにて公開
http://www.imes.boj.or.jp/cm/research/komonjo/001005/016/910214/html/index.html
『諸折形之図』、日本銀行金融研究所・貨幣博物館がインター・ネットにて公開
http://www.imes.boj.or.jp/cm/research/komonjo/001005/016/910213/html/index.html
『包結之栞:女子教科.上』斎藤円子編、国会図書館デジタルコレクション(ここからは一点のみ)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/848853
このほか、手許に遺されている(たまたま私が預かっている、というのがより正しい表現となろう)雛形集に助けを求めたものも数点ある。
これらを通覧し、同名の折形であっても、資料によって襞の配置や形状の異なるものは誤差の範囲と思われるであろうものをも含め、極力並置するようにした。さらに幾つか、複数の案を示したものもある。
どこまで貴方の参考になるのか、私には判らない。
微細な差異に過ぎぬとの非難は甘受しよう。されども、型紙のダウン・ロード、印刷、雛形作製・・・、時間・手間、また僅かではあろう費用の無駄が生ずれど、当方はその責を負わない。
■用紙について
主として用いたのは
242×166.5㎜(標準的な半紙の1/2)。
これは、たまたま直前まで整理を進めていた雛形集の大半が、半紙1/2の用紙で折られていたことが大きな要因であるが、幸いにして利用者各位のお手許にても準備し易い寸法だろう。
この大きさ(縦横比)の用紙ではうまく形が整わない場合には、
218×166.5㎜ で試みた(幾つか例外がある)。
横幅を縮めるとき218㎜幅にしたのは、私の手許にあった定規の幅が24㎜であったという、極めて実利的、かつ利己的な理由に基づく。ご寛恕あれ。
正方形を原紙とする場合には 166.5×166.5㎜ で折った。
■利用法
関心の在処によりさまざまであろう。どうぞご随意に、と言うのみであるが、以下、参考まで。
・雛形を折って愉しみたいと思う方なら
B4版程度に縮小(84~85%)して印刷すると、天地を折った際、ちょうど手の平に収まるくらいの大きさのものが出来上がる。
もとより誤差の範囲程度に過ぎない雛形の細かい差異にさほどの関心がないなら、手に馴染みやすく、姿カタチを愛でるにもほどよい大きさであろうと思う。
漂白の効き過ぎていない、やや厚手の半紙で折られた雛形はとても美しいものである。無論、染められた紙を重ねたり、千代紙を用いたりしても可愛らしいものが出来上がる。
・折形全般に習熟したいと望む方なら
図版や写真を通覧し、興味を覚えたものから順次折り進めればよいだろう。踏まねばならぬ順序など無い。
もっとも、総じて言えば、前もっての諸要素の配置を見積もり易いため、基底部、また、すべての襞が平行の折り線で形成されているものの方が、末広がりの基底部や折り襞を持つものよりも容易であろうとは思う。
換言すれば、末広型のもので先に苦労をしておくとすべてが平行のものを折るのは随分容易に感じられるだろう、ということでもある。
なお一言、申し添えておこう。襞の数が少ないものの方が簡単であるとは限らない(私に限って申すなら、『包結記』の「のし」や「木の花」など、いまだ得心のゆく姿にたどり着かないままである)。
単純なものほど、基底部の設定に後のすべてを委ねざるを得ない。折り襞の調整で均整を求める余地が残されていないためだと思う。
折形を語る人は好んで「真行草」を口にする。
一般に、「真=手間を掛けた複雑な姿、草=手間を省いた単純な姿、行はその中間」とされるが、襞の数の多いものの方が、かえって姿カタチをまとめ易いということもある。余談ではあるが、冗談ではない。
人により、適切な方法は異なるであろうが、問われたなら、私は次の手順をお勧めしようと思う。
1.まづは型紙の通りのものを折ってみる.
印刷したものの四方を切り落とし(破り取り)、
そのもの自体を雛形とするなり、
やや厚めの半紙や奉書など適当な用紙で折るなり、
お好きな方法で.
2.得られた雛形を基に、いくつかの襞の幅や折り出しの角度を変化させてみる.
一つの要素を変えたとき、全体の均整にも変化が及ぶか否か.
必要あらば修正を施し、再度、全体の調和を図る.
より美しいものに仕上がったどうかを確認.
なぜ、上手くいったのか、あるいは、なぜ、上手くいかなかったのか、
可能な限り、コトバにしてみる.
「ここでもよいが、そちらでもよい」ところもあれば、「ここでなければならない」ところもあろう.
ある要素の位置が定まれば、その時点で他の要素の落ち着き先が自ずと決まってしまうこともしばしばであろう.
3.基底部のみ雛形の通りに設定し、その他の襞は自身で折り定める.
より気に入った姿を得ることができただろうか.
なぜ、満足できたのか、あるいは、なぜ、不満が残っているのか、
可能な限り、コトバにしてみる.
4.基底部の設定から自身の目と手に任せてみよう.
より良いものを折り出すことができただろうか.
あるいは、原本の図版により忠実なものを仕立てることができただろうか.
・・・
こうした作業を積み重ねてゆくうちに、貴方の目の中に定規が出来上がるだろう。
そうすれば、後は意のままに、というワケにはなかなかゆくまいが、試行錯誤に費やさねばならぬ時間は確実に短くなるハズだ。
もっとも、これはある程度まで、私の作業過程を逆の方向にたどることともなろう。
貴方にとって、それが相応しい手立てであるか否か、私の知るところではない。
(雛形が手許になく、絵図に従って折形を調えるとき、
1.まづは、基底部を適当に定める
2.下がえの、おおよその見当をつけ、仮に折っておく
3.上がえの姿を調整しながら折り進め、その過程で気付いた下がえや
基底部の不具合を修正する
といった流れになるのが通例である.)
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展開図を見るのは苦手だ、と仰せの方は多い。気持ちは共有する。
しかし、展開図など慣れてしまえばどうというほどのものでもあるまい。
どこかに習いに行けば(幸運にも適切なところがあったとして)、「ここから〇センチのところで」、あるいは「だいたい、このあたりに」などと口頭での指示がなされるのであろうが、口頭による説明も展開図も、共に記号による伝達であることに、なんら変わりは無い。しかもそこにあるる要素は山折り、谷折り、たった二つだけだ。
”お出かけ”の口実に使うなら、それはそれで結構。しかし、外出着に着替えるために要する時間を図面を眺める時間にあてるなら、展開図に慣れるには充分過ぎるのではあるまいか。
移動の時間を紙を折る作業にあてるなら、いったい幾つのものを、幾たび試すことができるだろう。
繰り返そう。どうぞご随意に。
折形に馴染むのは、調理技術を身に付けることと同じだと思う。
最初はレシピを手にし、その通りに作ってみるところから始めるだろう。
しかし、一旦要領を得た後には、レシピに頼らずとも目分量で塩梅し、自身の、また共に味わう人々の好みに合わせて、程よい味付けが可能になっているハズだ。
曰く、習うより慣れよ。
無論、漫然とであってはならないが、随意に繰り返すのみ。
審美眼を育て、己の作業を冷徹に顧みよう。
最後に留意点を。
機器の利用環境によって事情は異なろうが、印刷に際しては「実際の大きさ」などを指定しなければ、幾分か縮小されてしまう可能性があるので注意を要する。
また、天地、あるいは下部の折り返しが求められるものについて、わづかな例外を除いて、その旨の表記は行っていない。すべて図版を参照のこと。
なお、原図に折り返しの指示がないものであっても基底部が平行であれば、多くの場合、天地を折り返すことにより、金封として、あるいは、何物かを包み込むものとして利用可能であうことは今更言うまでもなかろう。
■資料格納先(PDF : すべて google-drive )
1.解説
2.型紙(3つのファイルに分割した)
引き続き、さまざまな折形を展開図付きで紹介している『女子教科 包結之栞』に採り上げられた全百十余種についても整理を試みた。
1.図版